クライマー魂(後編)

K野さんの経歴はよく存じあげないのだが、過去に彼女自身が「クライミングに恋をして」というタイトル(うろ覚えですが)の投稿をしてたのを見て

そんな人おんねんや、、、

とひとしきり感心したのを覚えている。
そんなK野さんは何を隠そうボルダリングジムのオーナーでもある。

前にそのジムにボルタリングをしに行った時に片手でホールド(色のついた石みたいなやつね)を持ち、片手でブラシを持ちヒョイヒョイと登って行ってはホールドに付いたゴミを掃除していたのに驚かされたものだ。

そんなK野さんが、壁に挑んでいる。

分厚い服を着ている時はわからなかったが、時は夏、Tシャツの後ろから伺える肩の盛り上がりは「筋肉」と呼ぶにふさわしく、袖からニョキッと覗いているそれは「上腕二頭筋」の筋肉見本のようでもある。

わっ、ホンマに登るんや、、、

そんな雰囲気に圧倒され、周りの4人は固唾を呑んで見守った。
静寂がK野さんを中心にして同心円上に広がる。

すると、K野さんが何か呟きだした。

「こう行って、こう行って、こう、、」
「こう行って、こう行って、こう、、」

でた~~

僕は心の中でそう叫んだ。

ボルダリングの時に教えてもらったことだ。

「どうやって登るかをまずは考えんとね、それにはまずどこを持って、どこに足を持っていくか、それを順番に追っていくのよね、登るよりまずは考えることが肝心なのよ」

とK野さんは無骨な登りしかできない僕に諭すように教えてくれた。

そのイメージトレーニングなのだ。
僕はその言葉を思い出し、あらためて「本気だわさ」と思った。

「こう行って、こう行って、こう、、」

K野さんがまだイメージを作っている。

もう、ベニタケのことなどどうでも良いのだ。

上腕二頭筋の「張り」が僕らの目にも飛び込んでくる
K野さんがその壁にゆっくり近づく。
そして壁のコンディションを確かめた後、、

「やめとくわ!」

へ?

「登れるけどなぁ、降りられへん」

さすがだ、、、、

登るのもクライミングなら降りるのもまたクライミング。
この決断力こそが「クライミングに恋をして」いる何よりの証拠なのだ。

P.S.
そうそう、K野さんのボルタリングジムが一周年を迎えたそうな・・・
ではこの文章をお祝いの言葉として献上しましょう。
え?いらん?(笑)

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