富士山のキノコ達はずるい。
きっと神戸のキノコや、生駒のキノコ達は口を揃えてこう言うに違いない。
この山は火山岩や火山灰に覆われているはずなのだが、何十年、何百年の間にそこに植物の種が根付き、根を伸ばし、そして大きな樹へと成長していった。樹は水をたくわえ、土を湿らし、コケが地面全体を覆うようになっていく。
そんなコケの絨毯を縫うようにして散策路が刻まれている。高鉢の駐車場から「御殿庭」へと続く道。それはまるで楽園に導かれる夢のような道なのであるが、ガラン沢を越えてしばらくすると、それまでは平坦な道だったのがいきなり「登山道」となる。いきおいキノコを探す気持ちが薄れていく。坂道を見ると「登山モード」にスイッチが切り替わるのだ。
しかし雨はおとなしくなるどころか、その勢いを増しているようにも思える。木々の間に身を置くと分からなかったその「勢い」が、少し開けた尾根道に出た瞬間、ものすごい勢いで僕の身に襲いかかってきた。傘は飛ばされ、道を歩くのにも抵抗力がかかり、下へ、下へと押し戻される、、、
そこで気づいた。
あれ、今日は登山はしないハズだったぞ、、、、
そう思い直して、「御殿庭」への到達は断念して踵を返した。
帰り道は行き道と違った景色が広がっていた。
登っているときには気づかなかったキノコ達の姿が、木の陰に隠れていたり、岩の向こうにひっそり出ていたりする。
それらの新しい「発見」もまた楽しいのだ。
山は歩くだけじゃない、見たり、探したりするのもとっても楽しいものだと思い知る。しかもこの楽園の様な風景。乾燥と戦っている我が関西のキノコ達に教えてあげたらきっと嫉妬するに違いない。